おやこな真田主従!(幼稚園児幸村×大学生佐助)





今日は幼稚園の遠足だ。日曜日だし、本来ならば大学生である俺は休みで怠惰に過ごしているはずなのだけれど。
「さすけ、たのしみだな!」
隣にはにこにこと上機嫌な旦那がいる。
少し目線を上げれば先頭には大学の先輩であり、さくら組の先生である政宗先生がいた。
そう、俺は幼稚園の遠足に来ているのだ。
しかし、言わずもがな周りにいる大人といえばお母さんばかり。男である俺はなんとなく肩身が狭い。

話は一週間前にさかのぼる。
旦那の両親はその日も海外出張で、兄である信幸さんは野球の試合があるから行けない、と夕飯のときに告げられたのだ。
俺は今、真田家に居候している身なので断れる訳もない。
しかし遠足の場所が遊園地だったとは…計算していなかった。

俺が嫌いなもの一位はジェットコースター、何故あんな怖いものに自分から行くのか分からない。
レールが外れたらどうするのだ、もしシートベルトが外れたりしたら生きて帰れないに決まっている。
ちなみに二位はお化け。
そういう類いは信じないに限るのだろうけれど、やっぱり怖い。
触れられないものは倒せないではないか、気の持ちようで倒せるのかも知れないけれど俺はそんな高度な技を持っていない。
だから俺の嫌いなもの第一位、二位がある遊園地は好き好んで行ったことがなかった。
高校生のときに女の子とデートで行って以来だ。ちなみにそのデートの次の日俺は振られている。
始まる前からぐったりしている俺と対照的に、旦那はにこにこしている。
これを見れただけでも今日はいい日だということにしよう。
遠足はとりあえず13時までは自由行動。そのあとは皆で昼ごはんを食べて、シアターでCGを見るらしい。
ちなみに俺の嫌いなもの第五位は飛び出すCG、あれほんと勘弁して欲しい。



「さすけ、おれはじつはぷらんをたてているのだ!」
自信満々な顔で『えんそくのしおり』を渡される。
中身を見ると、旦那が書いたと思われるお世辞にも上手だとは言えない文字が並んでいた。
それによると、今日はジェットコースター三昧のようである。
心からジェットコースターは嫌いなのだが、旦那の前で怖がる訳にもいかない。
「うん、分かった。じゃあさっそく行きましょうか!」
もう一度手を繋いで、足早に目的のアトラクションへと向かう。
目指すはジュラシックパークだ。



このアトラクションの最大の見せ場は急降下らしい。
あー、もうほんと勘弁してくれないかなと心中で思うが、肝心の旦那はパンフレットを見て胸を踊らせている。
しかも此処まで並んでしまったのに今さら引き返すことなど出来ない。
30分程並んで、ようやく順番が来た。なんとなく足取りも重くなる。
しかし旦那一人を乗せるわけにもいかない。もしものことがあったら、身体を張って守らなければいけないのだ。
「さ、さすけ…?どうしたのだ」
やけに力んでいる俺を不審そうに見つめる大きな瞳。大丈夫だよ、と頭を撫でて座席に腰かける。
十分すぎるくらいにシートベルトも確認したし、きっと大丈夫だ。
急降下といえど、旦那のような小さくて可愛い子だってこんなにこにこしながら乗っているし、大丈夫だ。
運悪く一番前の席に来てしまったけれど…うん、大丈夫だ。
うんうん、と一人暗示をかけて納得する俺はかなり不審だったと思う。



「さすけ!あれはなんだ?」
最初のうちは全く怖くなくて、草食恐竜がぎゃーぎゃー鳴いていた。
旦那も嬉しそうに指をさして尋ねてくるが、正直俺はそれどころじゃなかった。
こういうのは何処かで体験したことある。最初はゆったりな感じなのにいきなり急降下!というジェットコースターを知っているのだ。
なんというデジャブ、俺は夢の国での出来事を思い出してため息をついた。
「あ〜あれは…なんだろうね〜。あ、ほら旦那!あの恐竜さん、洗濯物食べちゃってるよ」
「おお!なんと!かわいいな」
分からない恐竜の名前は違う話題にして流す。
幼い頃からこういうものに興味があまりなかったため詳しくないのだ。
「ほら、見て。なんだか政宗先生に似てるね」
本人が聞いたら激怒しそうだが、これもひとえに旦那を怒らせないためである。
「まさむねせんせいだ!」
きゃっきゃっと笑う旦那が見れて良かった、たぶんあれは爬虫類の動物だろう。
ごめんね!先輩、と心の中で謝る。
と、急にカヌーが変な方向に進み始めた。ナレーターの男が妙に慌てている。
なるほど、此処からが本番というわけか。
「さ、さすけ…どうなってしまうのだ…!」
驚いた旦那に服の裾を掴まれる。急に辺りが暗くなって、恐竜の鳴き声も凶悪なものになってきた。
いわゆる肉食恐竜のエリアなのだろう、先ほどから危険を知らせるサイレンが鳴り響いている。
「大丈夫だよ」
怖がる旦那を見て、これは自分が怖がっている場合じゃないと思った。何とかしなければ。
すっかり怯えてしまった旦那の頭を撫でてやる。
するとその手に水がかかった。両端の恐竜が水を出しているようだ。
「見て、旦那。恐竜さんがお水出してるよ。可愛いね〜」
「…?うむ!」
「目がキラキラしてるね」
「うむ!」
恐竜は可愛い、ということばかり言っていたらいつの間にか旦那は先ほどまでの怯えが嘘のようににこにこしていた。
しかし、それもつかの間だった。カヌーがどんどん上昇しているのである。
また夢の国での出来事がフラッシュバックした。旦那の前で格好悪いところは見せられない。
「はやくおちてほしいな」
楽しげに言う旦那の問いかけに頷くことが精一杯。
やっぱり俺様、こういうの無理かも知れない。 <
「さ、さすけ…?へいきか……!」
旦那の方を向いて、平気だよと笑いかけた瞬間だった。
目の前にばかでかい恐竜が出てきて、それと同時にカヌーが傾く。
「わー!」
「……!!」
声にならない叫びを上げて、一気に外へ出る。
何というか、何が起きたのか分からなかった。


「さ、さすけ…?」
ばしゃっ!と水しぶきが大量にかかる。最前列に座っていたせいか、水の量は半端ない。
隣に座っていた旦那も頭の先からびしょ濡れになっている。
心臓がばくばくと破裂しそうなくらい騒いでいた。
あの内蔵が浮く感じが嫌いなのだが、なんだかあっという間に終わってしまって拍子抜けした。
「さすけ?」
あー、とかうー、とか言っている俺を不審に思ったのだろう。旦那がびしょびしょの服を引っ張る。
「ん?」
「もうおりなくては!つぎにいくぞ」
ゆったりと元の地点に戻ってきた。正直、濡れた髪だとか服だとかはどうでもいい。
無事に帰って来られて良かった。
「あ、うん…そうだね。旦那待って、タオルで拭かなきゃ!」
降りてすぐに違うアトラクションへ向かおうとする旦那の腕を掴み、鞄からタオルを出す。
まだ少し暑いけれど油断は禁物だ。わしゃわしゃと全体的にタオルで拭く。
「よし、これでいいかな」
「さすけ、つぎにいくぞ!」
次のぷらんは〜、とえんそくのしおりを見ながら旦那がアトラクションの方向を指さす。
小さな指がさしているのはどう見てもこの遊園地一番のジェットコースターだ。
確か一回転するのでは無かっただろうか。
「たのしみだな!」
「……」
「さ、さすけ?」
「え、あ、う、うん…」
まさかこんな楽しそうな旦那を見て嫌とも言えず、せめて休憩したいな…という俺の願いは彼に届くことは無さそうである。
だけど、楽しそうにはしゃぐ旦那を見ればなんだか俺まで楽しくなっていったのは言うまでもない。




視界に君がいるだけでしあわせ


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いつかお化け屋敷にも行かせたいです。