真田主従が何故か女の子です、苦手な方はご注意ください(日記log)











まだ夏には程遠い、そんな春めいた日のことだった。深く色付いた緑が幸村の部屋の窓から見える。
「だーんな、何してるの?難しい顔をして」
普段なら鍛錬をしている時間だというのに、珍しく自室に閉じこもっている幸村に気付いた佐助が天井から声をかけた。
「佐助か。…聞きたいことがあるのだ、来てくれないか」
そう声をかければ、幸村の忍びは音も無く床に降り立った。
「どうしたの?…ん、これは……」
天井からでは幸村の影で見えなかったが、彼女の周りには無造作に化粧道具が散らばっていた。
「今日はきちんとした席に出席しなければならぬから…出してはみたものの」
普段は男以上に男らしい幸村が、化粧に興味を持つなんてと佐助は驚く。しかし考えてみれば当たり前のことで、それを嬉しくも寂しくも感じた。
「やり方が分からない、と」
「恥ずかしながら…こういうのはしたことないのだ。かといって女中を呼ぶのも……」
眉間に皺を寄せて落ち込む幸村に佐助はにっこりと微笑む。
「大丈夫、俺様が教えてあげるから。そんなに眉間に皺を寄せないの、可愛い顔が台無しでしょう?」
幸村の額に佐助の冷たい指が当たる。
「有り難う、佐助」
「お安い御用ですよ」
散らばった化粧道具を見て、佐助は得意気に笑った。


「で、あとはお粉をはたく…と」
「なんか変な感じだ」
肌に感じる違和感に少し顔を歪める。しかし、佐助がやることなのだから間違いは無いのだろうと幸村は大人しく瞳を伏せた。
「でも綺麗だよ、旦那」
「お前はいつもそうではないか」
幼い頃から一緒だった佐助は、いつも可愛いだの何だの褒めてくれる。きっとそれは嘘では無いのだろうけれど。
「だって、旦那はこの世で一番可愛いもの」
「…それは言い過ぎだ」
「言い過ぎなんかじゃない、旦那は一番可愛い。誰にも渡したくないくらい」
ぎゅう、と抱き締められて胸が苦しくなる。佐助の肌は冷たくて、火照った身体には心地良かった。
「さ、佐助…!」
ふと我にかえって、幸村は慌てて暴れだす。
「良いじゃない、それとも嫌だった?」
「嫌ではないが……びっくりしたのだ!いきなりそういうことをするではない」
「へいへい」
本当に可愛いな〜と言って、綺麗に整えられた髪の毛にふわりと触れる。
「佐助はこの世で一番かっこいいぞ!」
「へ?」
「いや…やはり一番はお館さまか。佐助は二番目だな」
「そりゃあ有難き幸せ!ってな〜」
佐助は温かい気持ちになった。
いつか、自分でも信玄でもない誰かのことを『一番かっこいい』と言うときが来るのだろうけれど。
そのときまでは一緒にいたい、と思うのはわがままな願いなのだろうか。




届かない愛を君に捧ぐ


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にょたももえます