おやこな真田主従!(幼稚園児幸村×大学生佐助)





「旦那、ほらくっつかないの」
家から幸村の通う幼稚園まではバスで十五分。
しかし、そのバスの送り迎えをするのは佐助の仕事だった。
足元にしがみつく幸村をなだめながら、頭を撫でてやり機嫌を取る。
他人である佐助に懐いたのは良いのだが少し懐かれすぎてしまったようだ。
同じバス停を使っているひとつ年上の慶次くんは、バスを今か今かと待っているのに。
「いやだ、さすけがいい」
しがみついて離れない小さな主に溜息をつく。
毎朝毎朝同じようなやり取りが繰り返されているのだ。


曲がり角から赤いバスが見えてきた。
定時ぴったりの時刻である。
「ほら、今日のバスは旦那が大好きな赤いバスだね」
「……うん」
「今日の先生は誰かな?政宗先生だといいね」
「……うん」
首だけ動かす幸村に胸がいっぱいになって、まだ小さい身体を抱え込む。
春といえど、寒さも残る季節。
幸村の体温は身体に心地良く、出来れば離したくないくらいなのだ。
しかしそんなことも言っていられないのである。
なぜなら佐助は幸村を送ったあと、自分も学校に行かなくてはいけないからだ。
「旦那は政宗先生も、信玄先生も大好きだもんね。幼稚園行けるよね?」
「……」
黙り込んでしまった幸村に内心焦りながらも佐助は笑顔で話しかける。
これで一回大泣きした彼は幼稚園にも行かず、結局佐助も大学を休む羽目になったことがあるのだ。
今日は大事な授業があるから何が何でも休むわけにはいかない。
「さすけ」
「ん?」
「さすけはゆきのことがきらいなのか……?」
泣く一歩手前の、涙の溜まった瞳で見つめられればそんなことないと条件反射のように言葉が出てくる。
「ゆきは、まさむねせんせいもしんげんせんせいもだいすきだけど……さすけがいちばんでござる」
だからずっと傍にいたいのだという幸村の頭を撫でる。
それでスイッチが入ってしまったのか、幸村はわんわんと泣き出してしまった。
「俺様は旦那のことが一番好きだよ、だから泣かないで。今日の夕飯は旦那が大好きなオムライスだからさ」
「Good morning,幸村、慶次」
よしよしと抱きしめていると、赤いバスから幼稚園の先生にしては柄の悪い男が出てきた。
さくら組の政宗先生である。
「おはようございます!」
「ぐす……、おはよ…ございま……ぐすっ」
「Oh…ま〜た泣いているのか?仕方ねえやつだな。そんなに佐助が好きか?」
政宗の問いかけに涙を拭きながらも頷く幸村を見れば、もう今日の授業などどうでもよくなってくる。
「かわ……」
「佐助、お前は甘やかせすぎなんだよ」
政宗は佐助の大学の先輩である。
そう言ってため息をつくものの、幸村の視線に気がつくとにっこりと普段の顔からは想像出来ないくらいの爽やかな笑顔を浮かべた。
「幸、今日はみんなでお散歩だ。佐助の学校も通るぞ」
「さすけ?」
「ああ、だから今日はいい子で幼稚園行けるよな?」
「……うん!」
甘やかせすぎなのはどっちなんだという言葉を喉元まで出しそうになりながら、天使のような笑顔を浮かべる幸村を見ればそんな考えもどこかに吹っ飛んでしまうのであった。




毎朝の日課


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おやこゆきさは永遠のもえだと思います。