僕はきっと、君に恋をしていた


いつも隣に佐助がいた。
家に帰ると両親や兄上は仕事や学校でいなかったのだけれど、佐助は必ず「おかえり」と言っておやつを出してくれていた。
いつから一緒にいただなんて分からない、ただ物心がついたときにはそこにいた気がする。
母上を幼いときに亡くした自分にとって佐助は母のような存在だったのかも知れない。
それを友人に言ったら笑われてしまったけれど。


重たいランドセルをしょって学校から家まで全力で走る。
理由はただひとつ、佐助に今日あったことを話したいからだ。
たくさん話したいことがあって、どれから話せばいいのかたまに分からなくなる。
そんなときも彼は「慌てないでいいんだよ」と笑ってくれるのだ。
俺は、佐助の笑顔が好きだった。
その笑顔を見るために俺は今日も家へと急ぐ。


「ただいま、佐助!」
鍵を開けて玄関へ入ると、目の前に彼はいた。
「おかえり」
息を切らしている俺を見て佐助はくすくすと笑う。
リビングに入って、佐助の作った団子に目を輝かせた。
「こら、手を洗ってうがいしてからっていつも言ってるでしょう?」
「う、うむ……」
言いつけをきちんと守ってから再び団子に手を伸ばす。
テーブルには佐助と俺だけ。
向かいに佐助が座る。
彼は物音を立てないのが得意なのかも知れない、こうして座るときだってほとんど音を立てないのだ。
一回だけ、何故佐助はそんなに音をたてずに行動出来るのだと聞いたことがある。
すると彼はなんでもないように「しのびだからだよ」と言った。
「しのび?」と聞き返すと、まだ旦那には早いかなといつもの笑顔を浮かべて言ったのだ。
「俺は旦那だけのしのびですよ」
そういったときの彼の表情は見たことないくらい真剣で。
兄上よりも父上よりも格好良いと思ってしまったのだ。


団子を頬張りながら今日あった出来事を話す。
例えば、慶次殿は今日もはれんちなことを言っていただとか。
政宗殿とドッチボールで白熱した試合を繰り広げたことだとか。
その隣で元就殿と元親殿はやっぱりケンカをしていただとか。
そんな他愛もない話を、佐助は楽しそうに聞いてくれたのだ。



佐助も学校があるだろうに、何故いつも家にいるのか、そのときはまだ分からなかった。
きっと、しのびだからだろう。
幼い心の中でそんなことを思っていた。