「だんな、だんな!」
五月晴れという言葉通り晴れた日のことだった。
大型連休は三日間連続バイトだったのだが、その代わり連休明けの今日は大学もバイトもない。
久しぶりにゆっくりとした日になると息を吐いた。
「ん?どうした、佐助」
自称だんなのしのび、である佐助が俺の隣にちょこんと座る。
「きょうは、なにもない?」
「ああ」
「だんなは、どこにもいかない?おれのそばにいてくれる?」
いつもならそんなこと言わないのに、佐助は大きな瞳を潤ませてじっと見つめる。
そんな、いつもと様子の違う佐助に違和感を覚えながらも頭を撫でた。
何処にも行かない、と言いながら。
「どうしたのだ、こんなことを言うなど佐助らしくもない」
「うん…わかっているの。でも、なんだかきょうはふあんになっちゃったんです」
左腕を抱かれて暖かい熱が伝わる。佐助の体温は心地よい。胸の奥がぽかぽかする、そんな感じ。
こういうのを幸せと言うのかも知れない。




「あ、だんな。きょうのおひるはなにがたべたい?おれさまがなんでもつくってあげる!」
「うーん…じゃあ、佐助の作るオムライスが食べたい」
佐助の作る料理は何もかもが俺の舌に合って最高なのだが、中でも一番好きなのがオムライスだった。(ちなみに俺は料理だけは全く出来ない)
はーい、と元気よく返事をして佐助の温かさが腕から離れる。
本当に無意識だった。
「…行くな!」
そのままキッチンへ向かう佐助の細くて小さな腕を掴み、気付けばそんなことを言っていた。
「だ、だんな……?」
驚いて此方を振り向く佐助は不思議そうに首を傾げる。
「すまない」
何かがフラッシュバックしたのだけれど、明確には見えなかった。
あれは若葉のように鮮やかな、緑。
「ただ、佐助が何処かに消えてしまうような気がしたのだ」
佐助は一瞬だけ瞳を大きくさせる。本当に一瞬だったけれど、見逃しはしなかった。
「おれは、どこにもいきません。ずっとずっと…だんながいらないっていうまで、あなたのそばにいます」
その表情はいつもの可愛らしい子どものものではなくて、まるで他の知らない誰かのようだった。
けれど目の前にいるのは間違いなく佐助だ。他の誰でもない、佐助。
「いらないなど…言うわけが無いだろう」
「……もうおいていかれるのはいやなんです
わざと聞こえないように言ったのか、佐助が何と言ったのか分からなかったけれど。
引き寄せた身体は思った以上に小さくて細い。
抱き締めると左右どちらの胸からもドキドキと音がした。確かに生きている証。
足りなかった何かが満たされた感じ。両胸の鼓動は温かくて、きっと佐助は太陽か何かなのだろうと思った。
「どきどきしてる」
「ああ」
「でも、あんしんする。…だんな、」
何か言おうと口を開く佐助の言葉は分かりきっている。俺も同じことを言おうとしたから。
言葉にするにはあまりにも、この想いは拙くて、だからきっとこうやって唇に想いを乗せるのだろう。


『好きだ』


0507




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